高尾みころも霊堂の写真集「慰霊 とこしえに」
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− 52 −産業殉職者慰霊の詩  鎮 魂 曲(虹)               左 近いまわたくしたちの閉じている瞼の底の闇の奥からいまわたくしたちの圧さえている言葉の下の沈黙の深みからゆるやかに浮かびあがってくる花びらの渦巻きほほえみの波立ちあなた仕事着のあなた陽の光に咲きでたあなたの顔の汗のはじけた花びら明るい笑いの仕事着のあなたあなたはいってしまった見えないそよ風にのって大空に立ちのぼってちぎれ雲を悲しみに青く染めて時間はどこまでも氷っているもう夕焼けも赤々と大空を燃え上らせない湖の氷のような冷たい明るさのなかに取残されてわたくしたちはいま氷柱となって立って祈るいってしまったあなたのほほえみの花びらよ虹となれわたくしたちの瞼の底の闇の奥を朝明けに芽ぶく地平の草花へときはなつわたくしたちの言葉の下の沈黙の深みを巣立つ小鳥のさえづりへひらく虹となれもう会うことのない別れの切なさを切なさのままに鋭く光と化して虹となれあなたのいってしまったあの日の朝かわしあった唇の色と形のそのままの虹となれああ湖の水のような冷たい明るさのなかでわれてゆくすべての温かみのなかでちぎれ雲の悲しみに遠く青く染まってわたくしたち氷柱となって立って祈り続ける慰霊の詩の朗読(関谷亜矢子さん)慰霊の詩

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